使用ラケットのお話②

テニス
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めちゃくちゃ細かいグリップ調整のお話

みなさんこんにちは。商品部奥村です。

前回の記事ではストリングスのこだわりについて紹介させて頂きました。

今回は第二段! 私が硬式テニスで使用しているラケットの【グリップ】について紹介させて頂きます。

グリップにこだわる理由

テニスをプレーされている方であれば、グリップテープにこだわりを持たれている方(ウェット・ドライなどの素材、好きなメーカー等)は少なくないと思います。グリップテープは世界中のスポーツショップで販売されており、メーカーも品番も数多存在します。

グリップはプレイヤーとラケットの唯一の接点なので、グリップがプレイヤーの感性にフィットしていることは非常に重要になってきます。感性にフィットというと余りにも抽象的な表現なので、私がグリップに求めているポイントを紹介致します。

①手首に不自由を感じず、タッチが出しやすい太さ・形状であること

②スイングスピードを上げてもずれにくく、安心して振れる形状・素材であること

③グリップチェンジがスムーズに行える形状・素材であること

上記3点は非常に大切なポイントになりますが、グリップテープの種類を選ぶだけで3点を全て満たすことは不可能です。なぜなら、3点のいずれも「グリップの形状」が要素として入っており、グリップの形状はグリップテープの種類の変更では賄えないからです。

そもそもプレイヤーによって、手の大きさはもちろん指先の感覚や握力は千差万別です。それにも関わらず、グリップの形は太さを選択できる以外は全てのモデルでほぼ共通です。(厳密に言うと、メーカーにより多少の形状差はあります。)

これってものすごい違和感を感じませんか?

グリップの形状はプレイヤーにとって重要な項目でありながらも、個人に適合させた調整を行うという慣習は日本国内ではほぼ浸透していないのが現状です。

トッププロ選手のラケットを観察するとグリップの形を個人の好みに応じて成型していることがわかります。一目見てわかりやすいのはフランスのリシャール・ガスケ選手のラケットです。ガスケ選手のラケットはグリップエンドが野球のバットのように大きくふくらんでおり、高速で振りぬくシングルバックハンドを打つ際に、しっかりと支える(抜けない・ブレない)機能を持たせていると昔のインタビューで仰っていた記憶があります。

トッププロ選手のようにイチからグリップの金型をつくるのは流石に無理がありますが、ある程度既存の型をアレンジしてプレイヤーに適合した形状を造型することは可能です。

そもそもグリップの形状って?

既製品のグリップの形状は主に「グリップの太さ」と「ベースの形状(正八角形・扁平八角形等)」 といった2つの要素から決まります。上記2点はラケットを購入する段階で決定しますので、購入時点である程度プレイヤーの感覚にフィットしていることが、適合したグリップ選びの最低条件になります。

「グリップの太さ」はサイズによってグリップの外周の長さが決まっており、外周の長さの基準は全メーカー共通の指標になります。ところが「グリップの形状」はブランドによって異なっており、グリップサイズは同じなのにブランドが異なるラケットのグリップを握ると感触が変わるのは「グリップの形状」が異なることに起因しています。

では具体的に「グリップの形状」がメーカーによってどのような特徴を持たせているのか説明させて頂きます。※厚さ:幅の比率はあくまでも近似値で個体によって多少の誤差・バラツキがある点ご了承ください。

①ウィルソン・バボラ・ダンロップ型

厚さ:幅の比率が5:6を目安に設計されており、最も一般に普及しているオーソドックスな形状です。プレースタイルを選ばず扱いやすい形状として定着しています。

②プリンス型

厚さ:幅の比率が4:5を目安に設計されており、本当にわずかですがウィルソン・バボラ型より小ぶりに設計されており、リストワークを効かせやすく設計されています。積極的にプロネーションを行いスピンをかけるタイプのストローカーに定評のある形状です。

③ヘッド型

厚さ:幅の比率が3:4を目安に設計されており、最も薄く広く設計されている扁平形状です。ラケット面と平行な辺が長く設計されている為、ラケット面を感じやすくタッチが出しやすいのが特徴で、薄い握りでも振りぬきにすぐれた形状です。スピード・インスティンクト・エクストリーム・MXGシリーズはウィルソン型に近づけたTypeSという型を採用しています。

④ヨネックス型

厚さ:幅の比率が7:8を目安に設計されており、最も正八角形に近い形状です。ソフトテニスラケットのグリップ形状に近く、ソフトテニス経験者や厚く握ってハードヒットを連発するプレイヤーに適合する形状です。

ちなみに筆者は③ヘッド型の標準タイプ(薄く広い扁平)のグリップサイズ2を永らく愛用しています。グリップが厚くなってしまうとどうしても手首の稼動域が狭くなり振り抜きにくさを感じてしまう為、薄い扁平形状を好んで使用しています。

カスタマイズの考え方

さて、上の段落で各メーカーのグリップ形状の特徴を記載し、おおよそプレイヤーの好みに適合したベースのグリップを選ぶ基準を紹介させて頂きました。ここからはベースのグリップにどのような目的・考え方をもってカスタマイズしていくか紹介していきます。

突然ですが、この記事をご覧の皆さん、手の指のそれぞれの役割って意識したことはありますか?

普段の生活では意識しづらいですが、人間の指はそれぞれ得意な役割があると言われています。よって、各指が最大限パフォーマンスを発揮できるような造型を施すのがベストということになります。 (指の役割理論には諸説ありますので、これといった正解がある訳ではなく、あくまで私の思想と一致した一説になります。)

親指・人差し指・中指の3本は非常に繊細な感覚を持っていると言われ、ラケット面角度の調整やスイングスピードの細かい調整を司ると言われています。ペンを持つ時に主にこの3本の指でペンを操るかと思います。細かく繊細な動きを支えているのはこの3本の指です。よって、この3本が窮屈に感じるようなグリップサイズ・形状になると鈍感なラケットワークに陥る可能性があります。

小指・薬指・中指の3本は非常に力強いと言われ、スイング時の挙動の安定・ラケット面の固定に大きな役割を果たしていると言われています。実際に握力と各指の相関性を調査した所、3本の指の組み合わせで分析すると、中指・薬指・小指の3本が一番握力が強くなるといった結論が出ています。

中指は繊細かつ力強い万能な指ということですね・・・

極端な話、

親指・人差し指が接触する部分はある程度細く窮屈ではない太さ・形状であること。

薬指・小指が接触する部分はすっぽ抜けや面ブレに耐える太くしっかりした形状であること。

プレイヤーの指の長さ・感性を考慮しつつ上記2点を抑えていればOKということです。

親指・人差し指が接触する部分が太いと窮屈さ・操作のしにくさを感じますしグリップチェンジに不自由を感じます。逆に薬指・小指接触する部分が細いとラケットはブレやすく安定しにくくなります。

中指はどちらの働きにも関わりますので、個々人が優先したい方の形状に合わせればOKです。操作性・スイングスピード重視なら中指も細く、グリップ・ラケット面の安定感重視なら中指も太く・・・といった具合です。

・・・いずれにせよ思いっきり相反する「細さ」と「太さ」を一本のラケットに備える必要が出てくるので、既製品で個人に適合させることは不可能です。そこで上で説明したようなプレイヤーの指の感性・役割に適合した形状に造型する必要が出てきますので、詳細は次の項目で説明させて頂きます。

実際のカスタマイズに入ります

それでは実際に「グリップの形状」の調整方法の説明にはいります。一番手軽かつポピュラーな手法は非伸縮の固定用テーピングで成型する手法です。実際に鈴木貴男プロをはじめとした多くのプロ選手が採用している業界ではメジャーなカスタマイズになります。

元々のエンドキャップの形状も小指で握る部分が一番太く、少しずつテーパーがかかっていって一番細い軸の樹脂部分に到達していきます。ここは私の感覚になってしまいますが、親指と人差し指のフィーリングはグリップ2のHEAD型扁平がベスト。しかし中指から小指の握りは不安定(特に小指)でかなり頼りない・・・

よって、中指~小指にかけて握る位置の太さ・形状を細かく調整しながらベストの形を模索していきます。

小指で握るエリアは特に太めに構築していきます。私の場合は「小指は5周巻」です。

非伸縮テーピングは名前の通り全く伸びませんので、少し角度がずれるとすぐにシワが寄って段差が生じます。強度は抜群なので強く引っ張っても千切れる心配はありません。ゆっくり力強く引っ張りながら成型していきます。

どこをどう太くするかはユーザーの指の長さと感覚に寄るところなので、恐らく一度で完璧な成型を施すのは難しいと思います。何度も何度もやり直してベストの成型を見つけてください!

中指~小指の握る位置にかけて細かく厚さを調整し、ようやく完成しました!

リプレイスメントグリップとオーバーグリップ

形状の調整は完了しましたので、最後に実際に使用しているグリップテープを紹介させて頂きます。

リプレイスメントグリップ:FAIRWAY Balmforth ダブルハンドレザー

レザーグリップの品質では昔から世界最高峰と言われるイギリスのBalmforth社が製造しているレザーグリップです。プロ使用率は群を抜いて高く、レザーにこだわりを持つプロは好んで愛用していました。一度2002年頃にレザーグリップの需要低下から製造中止となり、その際にはマルチナ・ヒンギス選手が数年分まとめ買いしたという逸話が残るほど業界では有名なグリップでした。一度は製造を中止したBalmforth社製のレザーグリップですが、最近復刻し、微々たる量ですが日本市場に持ち込まれるようになりました。非常に素材の密度が高く比重が重たいと言われています。その為、よりクリアな打球感かつパワーロスの少ないグリップに仕上がっています。繊細なタッチは勿論、細かいラケット面角度も伝わりやすいので、ボレー等のタッチで勝負するプレイヤーの方にオススメです。また、レザーグリップはシンセティックグリップよりも重量がありますので、ラケットは必然的にトップライトになります。意図せずバランスが変わってしまいますので、レザーグリップを使うのであればバランス調整は必須です。このあたりは次回の記事で説明しようと思います。

オーバーグリップ:BowBrand グリップテープ(WH) ウェットタイプ

こちらは説明不要なほど日本国内ではメジャーなグリップテープとなりました。質感・耐久性ともに申し分ないオーバーグリップです。ウェット感が強くグリップがずれにくいにも関わらず、グリップチェンジの際に違和感を感じないので、染込ませているポリウレタンと反物の質が絶妙なバランスで配合されていると思われます。オーバーグリップテープは様々なカラーが発売されていますが、質にこだわるのであればカラーはホワイト一択です。カラーグリップはもともとホワイトの反物に着色していきますので、染料がグリップのウェット感を損なうと言われています。プロ選手の使用ラケットを確認すると95%以上の選手がホワイトのグリップを使用しています。理由は上記の通り一番質が良いからに他なりません。

まとめと次回予告

いかがでしたか?今回は私の使用ラケットのグリップのこだわりについて長々と綴りました。相変わらず細かすぎて訳わかんない!と思われた方、度々スイマセン。懲りずに次回はウェイト・バランス調整のこだわりについて投稿しようと思いますので、私の記事に興味をお持ち頂けたマニアックな読書の方、引き続きお楽しみに!

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